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総長・学長メッセージ

湘南工科大学 総長 糸山英太郎と学長 松本信雄からのメッセージです。


【2017年3月】 多様性を理解し協力し合う時代

 私たち一人ひとりの嗜好が尊重されることは、至って普通のことになっています。

 かつて、外食は家族揃ってのイベントであり、ささやかな贅沢でもありました。しかし、最近の外食は、一人で好きなものを食べに行くことのできる、リーズナブルなものになっています。一家に一台だったテレビも、「お茶の間」という言葉を聞かなくなったように、各部屋に置かれるようになりました。電話も、携帯電話・スマートフォンのように一人ずつ持つものとなり、パソコンもまた、その名の通り個人的な持ち物になっています。

 このように、経済的に物質的に豊かになっていく中で、自由な消費行動ができるようになりました。人々は、自分が食べたいものを食べに行き、観たい番組を好きなときに観て、そして、誰にも気兼ねせずにネットワークにアクセスしています。その結果、私たちの間では、考え方や価値観、ライフ・スタイルなどに、大きな差異が出るようになりました。

 この春、本学を卒業する学生諸君もまた、このような差異を生み出している一人です。そして、社会に出れば、年齢や性別だけでなく、国籍・民族・宗教などの点でも異なる人たちがたくさん活躍しています。

 かつての日本企業は、日本的経営という独特の慣行で、社員の差異を最小化して団結力を高め、経済競争を勝ち抜いてきました。終身雇用によって定年までの雇用が確保され、年功序列賃金によって収入が増加していくシステムは、「いつか自分も上司や先輩のようになれるだろう」という期待を抱かせる、同質化を促進するための経営慣行でした。

 しかし、グローバル化の時代では、日本的経営を守ることは難しくなりました。また、「新人類」と呼ぶ必要もないほどに、新社会人はいつも今までと異なる感性や行動パターンを持っています。差異があって当然という時代になったと言えるでしょう。そして、近年では、それぞれの差異を生かすダイバーシティ・マネジメントが進んでいます。

 互いの違いに気付き、それを尊重する――。このことが企業の競争力を高め、そして、社員の幸福を実現する――。このようなダイバーシティ・マネジメントを支えるのは、能動的なコミュニケーションを通じた他者との協働です。卒業生諸君が本学のさまざまな授業を通じて身につけたチームワークの力が、多様性を活用する時代に求められています。

 卒業生諸君の活躍を心から期待しています。

湘南工科大学
学長 松本信雄

【2017年2月】 求められる学びの主体性

 学生諸君の就職活動に追い風が吹いています。

 2010年3月に60%だった大卒生の就職率は、2016年3月には74%まで上昇しました。また、仕事を探している人一人に対して何件の募集があるかを表す有効求人倍率も、昨年11月には1.41倍となっており、1991年以来の高水準となっています。初任給も実質的に上昇している、という報告もあります。就職先が見つからないために、あえて留年したり、大学院に進学する学生が増加した就職氷河期と比べると、近年の「追い風」の強さも理解しやすいところです。

 もっとも、こうした状況で内定を得た学生諸君も、悩みは尽きないかもしれません。友人・知人の内定先と比較して、就職先の知名度、ブランド力、または、初任給などで「格差」を感じることもあるかもしれません。しかし、ここは足元を見つめることが大切です。本学で、社会に貢献する技術者となるべく、切磋琢磨してさまざまなことを身に付け、専門性を高めたとはいえ、社会人としての実績はまだひとつもありません。あるのは、「これから活躍してくれるだろう」という期待と可能性です。それが初任給として表れていると考えたら、多少の差があったとしても、うれしいものではないでしょうか。

 学生諸君にとって、卒業は就職(や進学など)とセットになったゴールです。しかし、言うまでもなく、長い人生において、就職は本当のゴールではなく始まりです。社会人になってからも、学ぶべきこと、教わることは多いはずです。これまでは学費を払って学んでいたものが、社会人になると給料をもらって学ぶことになります。これは大きな違いです。最初は、言われるままに仕事をするだけで終わってしまうかもしれません。社会人として何十年も働いている人たちに、ついていくだけでも大変なことでしょう。それでも、やがて、後輩に教える立場になり、そして、自分の判断で仕事を進めることにもなります。

 これからの日本社会がどのようになっていくのか ――。これを正確に予測することは、極めて困難です。ただ、絶えず変化していくことだけは、間違いないでしょう。学生諸君が、社会人として働き続ける環境は、常に変わっていくということです。それは、一問一答型の、受け身型の知識だけでは、対応できないことを示唆しています。本学が進めているアクティブ・ラーニングは、そのような時代の変化にも対応する主体性を養うものです。就職活動の追い風に安易に身を委ねることなく、社会人としてのキャリアを見据えて、休暇中も学びの主体性を高めてほしいと思います。

湘南工科大学
学長 松本信雄

【2017年1月】 新しい年を迎えて

 喧騒の一年が終わりました。新年あけましておめでとうございます。

 2016年の国際社会では、イギリスが国民投票によってEU離脱を決め、アメリカでは次の大統領が決まりました。国内に目を向ければ、広島をアメリカ大統領が初めて公式訪問しました。東京では、女性都知事が誕生しています。また、天皇陛下が、生前退位の議論を喚起するメッセージを国民に向けて出されました。そして、熊本や鳥取などで、大きな地震も重なりました。

 スポーツやエンターテイメントの世界では、賭博や不法薬物の使用が発覚しました。国民的グループの解散も一年を通じた話題でした。一方で、リオ・オリンピックで日本選手が大活躍をするなど、明るいニュースも多くありました。プロ野球の世界では、広島カープが25年ぶりにリーグ制覇をしています。メジャー・リーグでは日本人選手が3000本安打を達成しました。興行収入が200億円を突破した大ヒット邦画も生まれました。

 冒頭で「喧騒の」と書きましたように、新年の幕開けを静かな気持ちで迎えるには、何かが必要なようです。古典的ですが、このような一年のはじめに、学生諸君には「音読のすすめ」を説きたいと思います。

 そもそも江戸時代には、「論語の素読」が広く行われていました。意味や解釈などを付け加えずに、皆でひたすら大きな声で読むのです。もっとも、このような方法は幼い頃からなされるもので、儒教的精神をたたき込むためでもありました。しかし、音読は、論語に限られるものではありません。新聞の社説でも、専門科目の教科書でも、好きな文学作品でも、何でも良いのです。昨今のように、膨大な情報があふれ、それらに流されてしまいそうなときにこそ、心を落ちつけて、音読することに意味があります。

 声に出して読むことは、自分の不足を知ることにつながります。正しく読めない言葉を、人間は書くことができません。書くことのできない言葉を、人間は理解することができません。理解できない言葉を、人間は使うことができません。音読は、この連鎖を断ち切る、主体的な学びとなります。読めるようになれば、その言葉を書くことができるようになり、書くことができれば、その意味を調べることができ、調べることができれば、その意味を知り、そして、その言葉を自分のものとすることができます。

 自分の言葉とすることが多くできるようになれば、書かれたものを深く理解することができます。その積み重ねは、やがて、物事の本質を見抜くことにつながるでしょう。つまり、社会が騒々しく、そして、激変しているように感じられても、決して変わることのない社会構造を理解することができるようになります。それは、ニュースや報道、ソーシャルメディアなどに流されず、自分を見失うことなく、心静かに生きていくことになるはずです。

 人間の生きる世界には、変わることのない本質があります。それを正しく理解できたときに、技術革新のような大きな変化を引き起こす「気付き」も生まれるでしょう。音読を通じて、社会に貢献する技術者を目指す学生諸君の一年が、より有意義なものとなることを期待しています。
湘南工科大学
学長 松本信雄

【2016年12月】 超高齢社会における技術の役割

 高齢ドライバーによる交通事故が続いています。高速道路の逆走や水路への転落だけでなく、集団登校中の小学生の列に突っ込んでしまうなど、事故の形はさまざまです。高齢者が事故に巻き込まれるケースも少なくありません。

 自動車による交通事故は、これまでにも大きな社会問題となってきました。高度成長期に自動車が普及する一方で、歩道などの整備が追いつかないために、歩行者が犠牲になることが多かったのです。亡くなった犠牲者には働き盛りの人も多く、遺された子どもが「交通遺児」としてクローズアップされました。そのために、交通遺児のための奨学金制度などが設けられています。

 最近の高齢ドライバーによる交通事故の背景には「超高齢社会」があります。65歳以上の高齢者が総人口の25%も占めるようなことは、言ってみれば、未曽有の事態であり、人類がこれまでに経験したことのない社会とも言えます。つまり、単純に、歴史に学ぶというわけにはいかないのです。

 では、どのようにして、この問題を解決したらよいでしょうか。そのひとつとして、高齢者に運転免許証を自主的に返納してもらうことがあります。自主返納した高齢者には、廃車費用を無料にしたり、タクシー補助券を給付するなど、各自治体もさまざまな工夫をしています。さらには、運転免許証の返納をもっと進めるために、一定の年齢に達したら、運転免許証を全員一律に認めないようにしたら良い、という意見も出ています。

 しかし、一部の高齢者による交通事故をもって、全ての高齢者の運転を認めないというのは、だいぶ乱暴な話です。都市近郊で生活する高齢者には、代わりとなる交通手段がありますが、地方では自分で車を運転する以外に移動手段のない人がたくさんいます。言うまでもなく、自動車は利便性を高めるものであり、人間の生活を豊かにしてくれるものです。これを一方的に取り上げることは、個人の自由が侵害されることにもなるでしょう。

 強制的な解決ではなく、社会全体で話し合ってみた場合はどうなるでしょうか。最終的には、国会などの場で決着をつけるということになりますが、結局のところ、「シルバー民主主義」とも言われるように、高齢者に有利な形で落ちつくのではないでしょうか。

 学生諸君には、このように解決することの難しい社会問題を前にしたときに、新しい技術が大きな突破口となることを、強く自覚してほしいと思います。諸君が日頃学んでいることの中には、車の自動運転技術に、直接的・間接的に関係するものが少なくないでしょう。もちろん、一朝一夕に自動運転が実現するわけではありません。しかし、そのような新技術が、「超高齢社会」という未だかつてない時代に、安全と安心をもたらすことは間違いありません。社会に貢献する技術者としての使命がここにもあります。

 今年も残すところ一カ月となりました。社会問題に直面する人を思って日々の勉学に励み、一年を締めくくるようにしましょう。
湘南工科大学
学長 松本信雄

【2016年11月】 多角的な視点が可能性を広げる

 百貨店業界が大きな岐路に立っています。銀座などの都心で新規開店がニュースになる一方で、地方だけでなく、千葉や埼玉でも閉店が相次いでいます。

 百貨店は、文字通り、あらゆる(百)商品(貨)を買うことのできる店のことです。フランス・イギリスなどの西欧諸国で始まったもので、日本に登場したのは20世紀になってからのことでした。

 三越や高島屋など今の日本の百貨店の多くは、それまで呉服店を営んでいました。呉服店は、明治になって、富裕層の消費が欧米化したことに対応したのです。呉服店では、畳の上で売り子がお客に説明・販売していたものを、百貨店では、商品をショーウインドーに並べて、お客が自由に手に取れるように変えました。

 また、百貨店は「時代の最先端を行く場所」として、自らを演出するようになりました。1914年にオープンした三越の日本橋本店の新館は、ルネッサンス様式の建物に、日本初のエスカレーターを設置して、全館暖房も実現しました。こうして百貨店は、呉服の販売だけでなく、外国製品や美術品なども扱うようになり、高級感あふれる場所として、全国に広まっていきます。

 そして、戦後改革で富裕層の経済力が弱まると、今度は大衆化路線へ舵を切ります。観覧車など大型遊具のある屋上広場や見晴らしの良い大食堂などで、一般的な家族向けのサービスを充実させました。また、衣料品や雑貨などの特売会場を設けて、高級品から日用品までを販売する、「小売業の王者」として君臨するに至りました。

 しかし、今、百貨店業界は厳しい状況に置かれています。1991年に12兆円あった売上高が、近年では6兆円にまで減ってしまいました。この背景には、家電や衣料品などの専門店や、独自のコンセプトで選んだ商品を扱うセレクトショップなど、ライバルの台頭があります。インターネット販売の普及もまた、無視できないものがあります。

 百貨店業界の今後を予測することは簡単ではありません。大切なことは、結果が出るまでの過程には、さまざまな可能性があることに気付くことです。人間は、結果が決まっていたかのように過去を振り返りがちですが、良い結果も悪い結果も、いくつもあった選択肢から導かれたひとつの帰結に過ぎないのです。百貨店業界の過去の栄光も、呉服店のやり方を貫くという選択肢を取っていたら、全く違った結果になっていたでしょう。ということは、今のような厳しい状況でも、それを乗り越えていく選択肢が必ずあるはずです。

 学生諸君には、何事も結果を決め付けるのではなく、さまざまな点から現状を考える習慣を身に付けてほしいと思います。いろいろな選択肢があることに気付くことは、これからの人生をより豊かなものにすることでしょう。湘南工科大学が全学的に進めている、気付きを大切にするアクティブラーニングの成果を、教室の外でも発揮することを期待しています。

湘南工科大学
学長 松本信雄

【2016年10月】 築地市場移転が投げ掛けているもの

 豊洲市場への移転がなかなか進みません。最近の報道では、盛り土のない地下空間の存在や地下の水質が問題とされています。

 そもそもは、築地市場の老朽化が問題でした。1935年に建設された築地市場は、修理・修繕を重ねてきたものの、それも限界に近づいています。予想される大震災への備えも十分ではありません。また、開放的な造りになっているため、市場全体の温度を一律に管理することができません。日本中の水産物を取引する卸売市場としては、心許ないことです。

 移転先の豊洲市場は、ガス工場の跡地に建てられました。ですから、どうしても有害物質が土壌に残ります。そのために、土壌を入れ替え、さらに盛り土をするといった対策が実行されました。しかし、その汚染対策自体の信頼性も十分とは言えない現状です。

 結局、今回の問題の本質は、「日本の食=高品質」というイメージを守ろうとしていなかったことにあります。

 近年では、中国産をはじめとして、外国産の食品が多く出まわるようになりました。いずれも、安い食品ばかりです。ただ、これらの食品は、不衛生な環境で作られたり、基準値以上の農薬が使われたり、消費期限切れのものが入っていたりするなど、さまざまな問題を抱えていました。

 にもかかわらず、多くの人たちが、外国産の食品を受け入れてきました。「失われた20年」という長い不況の中で、食費を節約する必要があったからです。安かろう、危なかろう――。多くの人たちの心の内には、そういう気持ちがあったと思います。「デフレ・スパイラル」は、食品をめぐるネガティブな風潮を伴うものでした。

 だからこそ、世界最大規模の築地市場を受け継ぐ豊洲市場は、日本の食のイメージを守る立場にありました。刺身をはじめとする日本料理は、ジャパン・ブランドのコアとも言うべきものです。ジャパン・ブランドの堅守は、輸出や観光振興といった「国際戦略」においても大事です。事実、各地の魚市場には、多くの外国人観光客がやってきます。もっと日本の技術力や経済力を活用し、それを全面的にアピールすることで、今回のような問題を起こさずに、明るいイメージを発信することができなかったものでしょうか。

 ましてや、最近は、中国籍漁船の乱獲が問題になっています。そこに、気候変動も重なって、日本の漁獲量は減少しています。魚食文化を守るために、海洋資源の保全や養殖技術の向上は、今後ますます不可欠となるでしょう。単に卸売市場として継続するのではなく、将来の日本のために、長期的な連携も視野に入れて立て直してほしいところです。

 今回の豊洲市場問題に限らず、マスコミはセンセーショナルな報道をすることが多くあります。学生諸君には、そのような報道に振り回されずに、さまざまな面から考える習慣を身につけてほしいと思います。

湘南工科大学
学長 松本信雄

【2016年9月】 外交は決して他人事ではない

 この夏は、リオ・オリンピックでのメダルラッシュもあり、日本人として誇らしさを感じることが多かったと思います。しかし、そのような華やかさだけが、国際社会における日本の立場を示しているのではありません。学生諸君には、いつまでも騒ぎに浮かれるのではなく、国際政治の動向に注目して、冷静に考えてほしいと思います。

 昨日、G20中国・杭州サミットが閉幕しました。
G20で首脳会議が開催されるようになったのは、2008年の世界金融危機に対応するためでした。この時、中国は胡錦濤国家主席の下で60兆円もの景気対策を実施したため、混乱する世界経済の「救世主」とも言われました。その中国が今回初めてG20のホスト国を務めるということで、私は議長を務める習近平国家主席に注目していました。

 今回、採択された共同宣言には、世界経済の成長のために金融・財政政策を活用するだけでなく、鉄鋼などの過剰生産を解消するために協力していくことが盛り込まれました。また、オバマ大統領との米中首脳会談では、地球温暖化対策を進めるパリ協定を批准することも決まりました。鉄鋼市場の値崩れも、温室効果ガスの増加も、中国経済に原因があるとされてきましたから、習主席は、G20の議長として、「責任ある大国」の首脳として、その役割を果たしたと評価することもできそうです。

 しかし、鉄鋼・石炭の過剰生産の解消は、今年3月の全国人民代表大会で、すでに決まっていたことです。当然のことながら、鉄鋼・石炭の生産量が減少すれば、温室効果ガスの排出は抑制され、地球温暖化の対策につながります。つまり、習主席がG20の議長として、参加国・地域をまとめるために「譲歩」したと評価するのは早計でしょう。

 また、ハーグ仲裁裁判所で否認された南シナ海の領有権の問題を、議長権限で首脳会議の議題としなかったことからも、国際社会に貢献しようとする姿勢はうかがえません。米中首脳会談では、これまで通り、中国の領有権を強硬に主張しました。さらに、韓国の朴大統領との会談では、韓国が北朝鮮への対応として、米軍の最新鋭迎撃システムTHAADの配備に反対しています。

 外交は、強硬にぶつかることもあれば、柔軟に対応することもあり、表裏があるのはいつものことです。しかし、今回の習主席の振舞いからは、中国が面子を守ることに終始し、国際社会に何の新しさももたらすつもりがなかったことが透けて見えます。また、自国の利益を優先することで、G20首脳会議の影響力を低下させてしまうことに、何のためらいも感じられませんでした。そのような習主席に落胆したのは、私だけではないでしょう。

 近年、大学教育においてもコミュニケーション能力が重視されていますが、外交においても交渉能力と柔軟な思考力・対応力が求められます。解決のためには、相手を理解することも必要ですが、中国の外交は相変わらず強気の姿勢を貫くばかりです。

 北朝鮮は、G20会議当日にも日本に向けてミサイルを発射してきました。その北朝鮮と韓国は長年、反目し合っていますが、日本はその両国から敵視されています。日本は、世界に誇れる文化を持ち、経済的にも技術的にも世界に大きな貢献をしてきた先進国であるに関わらず、外交においては弱腰で問題は長期化するばかりです。

 日本は、ロシア、中国、北朝鮮、韓国を隣国に持ち、かつ資源に恵まれない島国である以上、外交は国と国民を守り、発展を維持する大切な手段です。その成果が、我々国民の生活に大きな影響を与えるだけに、学生諸君には常に関心を持っていて欲しいと願います。
湘南工科大学
総長 糸山英太郎

【2016年8月】 東京都民が選んだ女性リーダー

 昨日、東京都知事選挙が実施されました。今回の選挙は、過去最多の21人が立候補したものの、3人の立候補者のゴシップや都連との確執など、ワイドショー的な報道が続くばかりで、候補者一人ひとりが主張する公約がはっきりと分からないまま終わってしまいました。
とはいえ、まずは当選した小池百合子氏に、おめでとうと言いたいと思います。しかし、大事なことは「これから何をするか」です。

 東京都の年間予算は13兆円もあります。これを支えているのは、活発なビジネスや経済活動で、都内総生産は92兆円にもなります。各国のGDP(国内総生産)と比べれば、世界第14位になり、まさに東京都は国家並みの経済を誇ると言ってよいでしょう。

 抱える人口も多く、その数は1300万人超です。外国人居住者も40万人います。また、日本の大学生の4割が都内の大学に通学し、大企業の半分が東京に本社を置きます。東京都は地方交付金を受けずに独自の財源だけで運営できる、全国で唯一の自治体です。都知事は、このように恵まれた経済を基盤として都政に臨むことができるのです。

 では、都知事として何をするのか、何をしなくてはならないのか――。残念ながら、いずれの候補者も有権者に訴えるものが弱かったように思います。かつて、美濃部亮吉知事は福祉政策の充実を、鈴木俊一都知事は財政再建を、石原慎太郎都知事は首都機能の回復・強化を実現しました。しかし、今回の選挙を通じて、そのような期待を有権者は持つことができたでしょうか。

 課題は、東京オリンピック・パラリンピックや待機児童だけではありません。高齢化の問題は東京都も例外ではなく、都内には老人ホームが圧倒的に不足しています。空き家の増加による治安悪化も懸念されています。大地震や島嶼部の火山噴火など、自然災害に対する備えも欠かせません。ヒート・アイランド現象への対応も不十分です。都市の景観という点でも、夜景の美しさとは対称的に、昼間の東京は写真を撮るのをためらうこともあります。

 また、東京はスポーツや芸術・音楽など文化の中心でもあります。全国から、世界から、多くの人たちが東京に移ってきます。
その一方で、人材も資金も、そして、チャンスも、東京に集中してしまうことには問題があります。東京都が「模範」となることは良いことですが、他の道府県に東京都と同じことを求めることは非現実的です。大事なことは、東京都が道府県と補い合うような関係となって、ヒト・モノ・カネ・情報が好循環することです。また、東京・ロンドン・ニューヨークと並び称されるように、世界をリードする立場にあることも忘れてはなりません。

 都知事が、有権者のために、さまざまな課題に取り組むことは当然のことです。それに加えて、東京都に関わる人々を政治問題にひきつけ、日本と世界を俯瞰して決断・実行する、卓越したセンスとバランス感覚が「都知事の資質」として求められているのです。新都知事はこのことを肝に銘じて、恵まれた経済基盤を無駄にすることなく、職務を全うしてほしいと思います。

 世界に目を向ければ、ドイツのメルケル首相をはじめ、イギリスのメイ首相、韓国の朴槿恵大統領、フランス・パリのイダルゴ市長、イタリア・ローマのラッジ市長など、多くの女性リーダーが活躍しています。そしてアメリカでは、ヒラリー・クリントン氏に米国初の女性大統領の誕生を期待する声が高まっています。
 このように各国の女性リーダーが社会に影響を与えているだけに、小池氏は世界的大都市の女性リーダーとして世界からも注目され、「これから」が冷静に、厳しく評価されることになるでしょう。

 かつては男性のものとされていた理系の世界でも、「リケジョ」と言われる女性の大学生や研究者が増えてきました。
 あらゆる面で多様化する現代社会では、男性女性が互いの特性を活かしながら、活躍していくことになるでしょう。本学の学生諸君にも本学で技術を身につけ、社会で役立つ人材となるよう頑張ってほしいと思います。
湘南工科大学
総長 糸山英太郎

【2016年7月】 イギリスから学ぶべきこと

 イギリスでは、EUに「残留」か「離脱」かを決める国民投票が実施されました。結果は、僅差で離脱派の勝利となりました。
同じ島国の先進国として、日本と比較されることの多いイギリスが、いま政治的・経済的に大きな岐路に立っています。

 1993年にEUが誕生した当初、加盟国は、フランス、オランダ、イギリス、ドイツ、イタリア、ギリシャ、スペインなどの12カ国でした。1999年には統一通貨ユーロも導入されました。EU内では、商品、サービス、資本、そして労働者の移動が自由です。イギリスは、グローバル企業の工場誘致だけでなく、優秀な労働者を集めることにも成功しました。EU加盟は、イギリスに巨大なEU市場で自由に競争する機会を提供し、大きな富をもたらした――。残留派の根拠は、この点にあります。

 転機は2004年の東欧諸国の加盟にあったとされています。経済的に貧しい東欧諸国の労働者は、仕事を求めてフランスやドイツ、そしてイギリスへと移動しました。彼らは、イギリス人の雇用を奪うだけでなく、静かだった地方に異質なコミュニティーを形成するようになります。また、イギリスにはEU財政を支えるために多額の拠出金が課されており、経済的に貧しい加盟国への援助を実質的に強制されてきました。EUから離脱すれば、外国人労働者の流入を防ぐことができ、拠出金をイギリス国内でもっと有効に使うことができる――。これが離脱派の主張です。

 このように、イギリスでは「国益」に対する意見が分かれてしまいました。イギリス国民の中で、共有するべき「国益」が失われてしまったのです。無論、残留派と離脱派それぞれの主張には一理あります。しかし、どちらか一方だけが正しいとは、決して言うことはできないのです。それが政治というものです。

 私は、国民投票についても危惧しています。
個々人の意見を直接反映するこの制度は、冷静な議論が成立しにくく、むき出しの国民の感情をぶつけ合うことになりがちです。
イギリスでは、国民投票のやり直しを求める動きも出てきました。
直接的な民主主義の是非についても、学生諸君には考えてほしいと思います。

 政治は、自分の願望だけを満たす場ではありません。それぞれが自分たちの要求を主張しながらも、それぞれの立場を理解し合い、さらに、より高所的見地から全体のことを考える必要があります。そして、これを担うのが政治家です。政治家は、話し合いのためにこれまでの経緯を学び、相手の現状を調べ、自分の支持者を説得し、「決着点」を見出す努力を重ねます。正しい政治判断を下すことのできる本当の政治家によって、「国益」は国民全体で共有されるようになるのです。
間もなく日本で行われる参議院議員選挙においても、国民に真剣な投票行動が求められることは言うまでもありません。

 自分の生活や将来を託せる政治家が誰なのか、学生諸君はそれを見極める目を持たなければなりません。そのためには、いろいろなことに興味・関心を抱き、大いに学び、教養を身につけることが大切です。選挙権を与えられたということは、それだけの責任を伴うことなのです。
湘南工科大学
総長 糸山英太郎

【2016年6月】 日本の安全保障を真剣に考える

 過日、オバマ・アメリカ大統領が広島を訪れ、ひとつのスピーチをしました。2009年にプラハで、核兵器を使用した唯一の核保有国としての道義的責任から核兵器廃絶を明言した大統領らしく、核保有国が恐怖の論理から解放されなくてはならないと訴えました。また、スピーチは、被爆した人たちの思いに寄り添おうとするものでもありました。しかし、アメリカが広島・長崎に原爆を落とした、と明言せずにスピーチが始まったことには違和感も残ります。

 オバマ大統領の掲げる理想に反して、大国の安全保障には矛盾が少なくなく、また、無視できない現実が日本にはあります。核兵器廃絶を唱えながら、アメリカは安全保障に必要な核抑止力を維持する政策を変更していません。また、化学兵器・生物兵器には禁止条約があるものの、核兵器にはそれがありません。核拡散防止条約を批准したアメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国は、核保有国として絶対的な優位を維持する思惑を捨てていないのです。

 私たちの近隣では、中国が核兵器を増やし、北朝鮮が核兵器と弾道ミサイルの開発を進めています。日本は、アメリカの核兵器の傘の下に入ることで、また、在日米軍約4万人によって、このような脅威から守られています。安全保障をアメリカに依存する――。これが今の日本の現実です。

 私も、オバマ大統領と同じように、戦争のない平和な世界を心から希求します。狂気が支配する戦場を生んではなりません。そして、外交は戦争を回避できるだけの英知と実力を備えている必要があります。しかし、ただ願うだけでは、戦争を防ぐことはできません。自分の国を自力で守り抜くだけの国防軍を持たなければ、他国は武力行使したときに受けるであろう反撃を、きちんと想定して直視することはないのです。逆説的ですが、戦争の「現実性」が外交カードになってはじめて、互いの国益をぶつけあう交渉のテーブルで対等な立場になり、本当の意味で戦争を回避することができるようになるのです。

 安全保障でアメリカから自立するということは、他国と軍事的に対立するということではありません。日本が戦争のできる国になるということは、戦争をしようとする国になるということでもありません。明治維新から敗戦までの約80年の歴史は、日本がアジア諸国の領土で絶え間なく戦争をしてきた歴史ですが、戦後約70年にわたって日本は一度として他国との戦争を起こしていないのです。また、国内でも内戦・紛争は起こっていないのです。このような戦後の「実績」に私たちは誇りを持ち、その誇りの上に自立した軍事力を保持する――。そのような国防軍を持つことが、日本の目指すべき安全保障政策であると私は考えます。

 本当の意味での平和を実現するために、そして、日本の安全保障上の現実を変えていくために、学生諸君にも、あるべき日本の安全保障政策を考えてほしいと思います。
湘南工科大学
総長 糸山英太郎

【2016年5月】 大切な学生を預かる責任

 東日本に続いて、九州地方で大地震が発生しました。それも、震度7以上の地震が連続して起こっています。

 地震大国である日本では、「30年以内にマグニチュード7級の首都直下型地震が70%の確率で発生する」といった予測が、マスコミを通じてセンセーショナルに伝えられることがあります。私は、こうした若い世代を滅入らせ、将来への希望を失わせるような報道に憤りを感じます。そのような予測よりも、もっと「歴史の声」に耳を傾けるべきでしょう。

 平安時代の869年には、東日本大震災と類似した貞観地震ありました。また、江戸時代の1611年に東北地方で大震災が発生した後に、1619年に熊本・大分で大地震が起きたことが最近になって明らかにされています。そんな大昔に起ったことを、と思う人がいるかもしれません。しかし、地球の歴史は46億年もあります。そのような長い歴史の中で、1100年前、400年前に、大地震が発生した意味を考えることが大切です。

 過去を振り返らずに「前例がない」「想定外」で済ませてはなりません。これまでに起こった災害の歴史からきちんと学ぶ時が来ています。そうすることで、しっかりと災害に備えることもできるのです。

 湘南工科大学では、私が直接指揮をして、大地震・災害対策の行動マニュアルを作成するなど、災害への対応能力を高めてきました。学生諸君は、キャンパス内と周辺の非難場所の地図などが載った災害・緊急時対応カード(水に濡れても破れない特殊な紙で製作)を学生証とともに携帯しています。また、この4月には、新入生全員を対象に毎年実施している避難訓練を行いました。大学施設の耐震化工事は10年以上前から進めており、4号館の屋上には電力確保のための大規模なソーラーパネルを設置しています。

 地域との連携も行っています。本学は、藤沢市から広域避難場所・津波一時避難場所に指定されていて、東日本大震災の際には、大勢の地域住民を受け入れました。また、藤沢市消防局の水難救助訓練のために、附属高校のプールを定期的に提供しています。本学後援会からも支援を受け、昨年は、非常用食品、飲料水、ブランケット、簡易トイレの災害用備蓄品が寄付され、これらは大学各棟の事務室などに配備してあります。

 このように災害への備えを重ねている本学ですが、実際に災害が発生したときには、理事長である私が、災害対策本部を設置して陣頭指揮を執ります。学生諸君の安全を守ることに力を惜しむようなことがあってはなりません。本学は、これからも学生諸君の安全確保のために、さらなる努力をしていきます。
湘南工科大学
総長 糸山英太郎

【2016年4月】 湘南工科大学へ入学する諸君へ

 新入生諸君、入学おめでとうございます。
 湘南工科大学を学びの場として選んだ諸君を、私は心からの祝福と大きな期待をもって迎えます。

 21世紀になって15年が経ちました。新入生諸君が卒業する2020年には東京オリンピックが開催され、21世紀も5分の1が過ぎることになります。時代は激しく変わり続け、人工知能やiPS細胞だけでなく、様々な分野で大きな進歩が見られることでしょう。

 このような時代では、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとったSTEM教育を受けた人材、すなわち、理系の知識を社会で活用できる人材が著しく不足すると言われています。アメリカのオバマ大統領は、今後10年で100万人のSTEM人材の育成を数値目標として掲げました。EUも経済成長の源泉としてSTEM人材の育成に力を入れています。本学で学ぶことを決意した新入生諸君には、正に先見の明があると言えるでしょう。

 湘南工科大学では、新入生諸君の可能性を広げるために、工学の専門科目以外にもさまざまなプログラムを用意しています。英語の授業では、海外語学研修を希望することができます。2週間の短期留学を通して語学学校に通い、本学での単位を取得することも可能です。中学・高校の技術、工業、情報、数学の教員免許を取得できる教職課程もあります。中でも本学は、中学校・技術科の教員育成で、神奈川県内でとても高い評価を受けています。その他にも、体育の夏期集中授業には、湘南の地を活かしたサーフィンの実技があります。もちろん、哲学、芸術、心理、法律、政治、国際関係、経済などの教養科目も揃っています。

 湘南工科大学という、新入生諸君にとって新しい環境を、大いに活用して勉学に励んでください。そのような諸君を、私は父親のように温かく見守り、そして、応援したいと思います。今年度も、糸山英太郎育英基金から全額支援をして、学生諸君に無料で朝食を提供する「湘南ブレックファスト」を実施します。きちんと朝食を取れば、一日の学びがより充実します。しっかりと朝食を取る人は、社会でも良い仕事をします。たかが朝食と思ってはなりません。一日の基本は朝食にあり、です。勉学とともに、食習慣もしっかりと身につけてほしいと思います。

 そして、大学入学の日を迎えることのできた感謝の気持ちをご両親に示してください。大きく成長した姿を見せられるように頑張りますと約束をしてください。

 最後に、決してよそ見をしてはなりません。新入生諸君の頑張る場所はここ湘南工科大学でしかないのです。
必ず学業を4年間で成就させてください。
4年後の春に諸君が湘南工科大学を力強く飛び立つ姿を、楽しみにしています。
湘南工科大学
総長 糸山英太郎