少子高齢化や人口減少が進む我が国では、行政の財政難が深刻化し、福祉や公的サービスの縮小が避けられない状況にある。従来の「行政が提供し、住民が受け取る」という一方向の仕組みでは対応しきれない地域課題が増加しており、地域住民同士が相互扶助によって支え合う自律的な仕組みが求められている。 こうした課題に対して、地縁型住民自治組織やNPOなど、地域を支える多様な主体が存在してきた。しかし、地縁型組織では住民間の連帯感の希薄化や加入率の低下、役員の高齢化、担い手不足が顕在化している。またNPOについても、人材確保の困難や運営上の問題、地域ネットワークの不足といった課題が指摘されている。 このような中で、スポーツイベントを契機として設立されるボランティア組織が、地域活性化に大きく寄与している点に注目が集まっている。これらの組織はイベントの運営にとどまらず、観光、福祉、コミュニティ形成、さらには環境問題の解決といった幅広い分野で活躍できる可能性を持つ。実際に、文部科学省が2014年に実施した「スポーツにおけるボランティア活動活性化のための調査研究」によると、地域で活動するスポーツボランティア組織(85団体)やトップスポーツチーム(11競技・21リーグ・303チーム)への調査を通じ、多くの団体がスポーツイベントをきっかけに発足し、地域団体では60代、トップチームでは20~40代が中心的に活動していることが明らかになった。また、いずれの組織も「新しい登録者の不足」や「運営の中心となる人材の確保」を重要な課題として挙げている。 事例調査では、スタジアム、空港、障害者スポーツ支援組織、県単位のボランティア組織やプロスポーツチームなどが、創意工夫しながら多様な取り組みを進めている。一方で、平日開催や特定時期の人手不足、活動拠点・運営資金の不足といった問題が未解決のまま残されている。さらに、岡山県・広島市・仙台市で実施されたトライアル事業では、スポーツボランティアの新規創設支援や若者向け育成講座が有効であり、中高生の参加が人材の発掘や長期的な活動継続につながることが示唆されている。 これらの結果から、スポーツボランティアを通じて地域のスポーツ活動を支え合う「好循環」の仕組みを構築する必要性が示唆される。図表1に示す「スポーツボランティアの好循環モデル」は、大規模または地域スポーツイベントへの参加をきっかけとして、日常的なスポーツ現場への関与が広がり、より多くの人々が地域スポーツを支えるようになるプロセスを描いている。特に、地域スポーツイベントにおける運営の質を向上させ、参加者の満足度を高めることは、ボランティア活動の継続を促す重要な要素である。将来的には、こうした活動がまちづくりや災害支援など、スポーツ以外の分野にも波及していくことが期待される。 また、内閣府の調査が示すように、近年は社会貢献への意欲が高まっており、子育て世代は「子どものため」、若者は「自己実現」の手段として地域活動やボランティアに参画する傾向がある。こうした意欲を地域へと誘導する手段として、スポーツイベントは特に有効と考えられる。しかし、地域の多様な課題に応えるためには、分野を超えたボランティア組織同士の連携が不可欠である。地域資源を統合し、持続可能な形で活用するために、スポーツをきっかけとした地域活動への参加を促進する具体的方策を検討していく必要がある。 1.はじめに 1 第1章 序論
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