ポーツとボランティア活動の融合が実現されてきたことがわかる。さらに、そうして着実に重ねられてきた地域活動と地域スポーツボランティア活動との融合は田鶴浜地区におけるレガシーとなり、イベントと呼ぶのは適切ではないものの、突然に地域を襲った大規模な地震災害による被災生活を支えていくうえでの文化的基盤となると共に、今後の地域再生を下支えする活力となっている。 一方で、財政健全化の観点などから、近年は公的資金が投入される大規模スポーツイベントに対しては、一過性の事業として商業的な成否で評価されることを見越して、事前に終了後に地域にもたらされる意義を緻密に検討されるようになってきた。そのため、事後評価を見越して事業の計画段階における事前評価として、事業終了後の成果としての具体的な目標を掲げて提示することが求められる場合があるものの、いわゆるレガシーとは直接的に生み出すものではなく、むしろ本来の目的を終えた後に新たな意味や価値を紡ぎ出すことによって生成・維持・発展するものであることを、田鶴浜地区での3度の好循環が改めて気づかせてくれる。 したがって、半島部に位置する地方自治体において、一地区の地域とスポーツの振興に取り組んできた田鶴浜スポーツクラブの事例は、地理的条件などをさしおいても、人口減少社会に向き合う地域に、とりわけ大規模災害を経験していない未災地域に極めて貴重な示唆を提供している。それは繰り返し述べているとおり、「スポーツボランティアの好循環モデル」が先行して展開されてきたと位置付けられると共に、発災時の互助・共助を可能とする集団規範が醸成されてきたためである。ジュニアスポーツから生涯スポーツまで、競技種目と競技人口の拡大に取り組むだけでなく、幅広い地域活動も取り組んでいる田鶴浜スポーツクラブは、スポーツ活動の枠を超え、地域住民のつながりや相互支援の基盤を築いている。このことは、総合型地域スポーツクラブが地域活動の中心となることで住民同士が協力しながら復興活動に取り組むことを可能にするという点で、他の地域においても参考となるだろう。 特に注目すべきは、震災前から築かれていた地域活動基盤の活用である。災害発生時にその基盤を迅速に生かすことで、復興活動は円滑に進み、支援が効果的に実施された。地域のつながりが日常の活動を通じて形成され、それが非常時にも役立つ形で機能したことは、他地域にとっても重要な教訓となる。震災後の迅速かつ的確な支援には、日頃から地域内での信頼関係や協力体制を築いておくことが不可欠であると、田鶴浜スポーツクラブの事例は示している。 (3) 地域スポーツとボランティア活動の相乗効果と今後の課題 また、地域スポーツ活動とボランティア活動の相乗効果が、地域課題の解決を加速させる点も見逃せない。スポーツを媒介とした地域のつながりは、単なる競技や運動の場にとどまらず、住民一人ひとりのふるさとへの愛着や帰属意識を高め、それが地域活動への積極的な参加へとつながる。こうした個々の想いや関わりが重なり合うことで、地域課題の解決に向けた新たな力が生まれ、ボランティアの「好循環モデル」が形成されていく。さらに、SNSなどの情報発信ツールを活用したボランティア活動の推進も、復興と地域活性化において重要な要素である。田鶴浜スポーツクラブは、地域資源を最大限に活用し、住民の協力を得ながら支援活動を広げることに成功している。その取り組みは他地域にも十分応用可能であり、情報共有や住民参加の促進が、持続可能な地域づくりの鍵となる。 田鶴浜スポーツクラブを中心とした地域社会組織のありようは、スポーツクラブを媒介にしつつ、地域社会における生活課題を共有し、学び合う構造を生み出す素地を持っていると考えられる。2024年1月1日に発災した「令和6年能登半島地震」からの復興過程においては、そのような学び合いから、新たな地域やそこでの暮らしを創造する営みや実践へと発展させることが期待されているといえよう。スポーツを媒介とした地域のつながりは、計画的かつ効率的な管理運営(いわゆるPDCA)を貫くことで生成・発展するものではない。地域のつながりは、住民一人ひとりの成長やふるさとへの愛着が自然と駆り立てられる社会的・文化的な資源の価値を互助的な活動を通して高めていく中で結果として高まるものであり、それが言49
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