(1)スポーツを基軸とした好循環モデルに関する6事例の比較検証 スポーツボランティアの好循環モデルでは、「大規模または地域スポーツイベント」がボランティア参加の入口となり、そこから「日常的なスポーツ現場」への関与が広がることで、参加者が地域のスポーツを継続的に支えるようになり、さらに「まちづくり」や「災害支援」などの分野への波及が出口として位置付けられる。この循環を通じて、スポーツを基軸とした共助社会の形成が期待される。 本節では、6つの事例について、入口(参加のきっかけ)、活動の広がりと定着(活動の拡大・定着・育成の工夫)、出口(成果・波及)を整理し、モデルにどのように適合しているかを明らかにする。 ① まちだサポーターズ 2013年の東京国体を契機に誕生した市民スポーツボランティア組織であり、「大規模イベント」が参加の入口となる好循環モデルの典型例である。活動は地域スポーツイベントにとどまらず、防災、福祉、文化など多様な分野に広がり、継続的な関与やスキルの習得を促す場として定着している。こうした活動の広がりと定着を通じて、地域課題に取り組む人材が育成されており、多様な住民が参加できる柔軟な仕組みや、市民と行政が協働する運営体制によって、活動の持続可能性と地域の共助意識の醸成が図られている。 ② チームFUJISAWA2020 東京2020大会を契機に設立された地域スポーツボランティア組織であり、大規模イベントが参加の入口となった典型例である。地元のウォーキングイベントや清掃活動などを通じて市民の参加機会を創出し、活動は福祉、防災、環境など多分野に広がっている。特に学生主体の企画運営や行政との連携会議を通じて、若者の参画と官学民の協働体制が定着している。さらに、ポータルサイトなどのデジタル活用により活動の見える化と継続性を確保し、人材の定着や他分野への波及といった出口にもつながっている。 ③ 川崎フロンターレ Jリーグのホームゲーム運営を主な入口とし、継続的かつ体系的な育成と地域貢献により、好循環モデルの中核要素を体現する事例である。活動範囲は、地域の幼稚園や区民祭り、病棟訪問など多様な活動に広がり、地域住民の関与を促している。チューター・リーダー制度により柔軟な参加や継承が可能となり、活動の定着が図られている点も特徴的である。クラブは事務局として自治体・団体と連携し、福祉や防災への波及を実現している。人材の育成と共助社会の形成に貢献しており、スポーツボランティアの好循環モデルの各構成要素をバランスよく備えた先進事例である。 ④ SV2004 宮城国体やFIFAワールドカップ経験者の再結集を入口に発足した市民スポーツボランティア団体であり、2014年に開始された中高生向け育成講座が若年層の参画促進に寄与している。サブリーダー制度や段階的な研修によって、スキル向上と継続参加を促す仕組みが整い、ベテランによる伴走支援や「楽しむ」文化が活動の定着を支えている。プロスポーツチーム(楽天、89ERSなど)との連携や地域イベント、環境活動への関与を通じて、地域課題に取り組む人材育成という出口にもつながっており、自主性と持続性を軸とする好循環モデルの好事例である。 51 2.地域のスポーツボランティアの現状と課題
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