⑤ 山口県・周南市 山口県・周南市におけるスポーツボランティア活動は、2006年の「おいでませ!山口国体」を契機に本格的に組織化され、大規模イベントが参加の入口となった例である。活動は大会補助や清掃などにとどまり、活動の広がりと定着は限定的である。しかし、既存の枠組みを活かした若年層の参加促進や世代交代の仕組みづくりが進めば、出口としての地域貢献にも広がりが見込まれる。部活動の地域移行を好機と捉え、レガシーの再活用による発展的な展開が期待される事例である。 ⑥ 田鶴浜スポーツクラブ 1999年に地域の少子高齢化・過疎化への対応を目的として設立された総合型地域スポーツクラブであり、住民の自主的な参画を入口とした好循環モデルの先進事例である。活動の広がりと定着においては、助成金に依存しない運営や、指導者が地域活動も担うことで人の循環が生まれている。出口としては、2024年能登半島地震に際し避難所運営支援に取り組み、地域の「共助」の担い手として顕著な役割を果たした。震災後の新スポーツ導入や地域行事の再生も含め、地域再生に貢献する実践は、地域課題解決型スポーツクラブの有力なモデルケースである。 (1)―1 まとめ:スポーツを起点としたボランティア活動の地域定着と波及に向けた好循環の構造 各事例は、それぞれ異なる地域課題や組織文化のもと、入口・活動の広がりと定着・出口という段階を経て好循環を形成している。なかでも、まちだサポーターズ、チームFUJISAWA2020、SV2004、田鶴浜スポーツクラブは、ボランティア活動が地域社会に波及し、多様な人材が循環する仕組みを実現しつつあり、スポーツボランティアの好循環モデルへの高い適合性を示している。一方、山口県・周南市の事例では、設立から約20年が経過し、制度の見直しや若年層の参画促進が期待される。スポーツを入口としたボランティア活動が、いかに地域に定着し、他分野へと波及するか。その鍵は、多様な参加機会の創出と、活動を支える中間支援の仕組みにあるといえる。 (2)運営別にみるボランティア組織の分類 本研究では、スポーツイベントの運営を主な活動とするボランティア組織を中心に事例を抽出し、その活動状況や組織の課題などを整理・分析した。6事例は組織運営の状況から、以下の2つの型に分類できる。 ①行政・企業支援型(まちだサポーターズ/チームFUJISAWA2020/山口県/川崎フロンターレ) 自治体やプロスポーツチームなどが運営するスポーツボランティア組織。ボランティアメンバーは活動参加者の管理や活動機会の確保などを組織運営の担当(有給スタッフ)に任せて、イベントなどのボランティア活動に専念できる。 ②ボランティア自主運営型(SV2004/田鶴浜スポーツクラブ) スポーツボランティア活動だけでなく、そのための組織運営をボランティアメンバーが担う。活動機会の確保と活動内容の充実のため、スポーツイベント主催者など、他の組織との調整が必要となる場合があり、中心メンバーには高いコーディネート力が求められる。 (3)分類別にみる課題と共通する課題 行政・企業支援型は、事務局機能を行政や企業などの支援組織が担うことにより、登録者(メンバー)の管理や活動機会の確保が比較的容易であるという利点がある。一方で、運営担当者がボランティア活動の意義を十分に理解していない者に交代した場合、メンバーのモチベーションが低下する可能性がある。また、支援主体の方針転換により、組織の縮小や解散に至るリスクも想定される。 52
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