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情報工学科 浅野 俊幸 教授


スーパーコンピュータを使ったシミュレーションで、
街の安全や賑わいに貢献

情報工学科の浅野俊幸教授は、JAMSTECのスーパーコンピュータを用いた研究開発を経て、 災害発生時の環境と群衆の避難行動を組み合わせた マルチエージェントシミュレーションシステムを開発。 最近では、平常時の人の行動の予測から狙った場所に誘導する仕組みまで研究対象を広げています。

災害時の群衆の避難行動をシミュレーションする技術

大規模災害が発生すると、大勢の人々が避難行動をとります。各自治体にはハザードマップに基づいた避難所が設置されていますが、災害に強い街づくりを実現するためには、現実の災害発生時に数万人もの群衆がどのように行動するかを把握しておく必要があります。研究テーマである「マルチエージェント社会シミュレーション」とは、そのような災害発生時などの群衆の行動をシミュレーションするものです。

災害発生時の群衆避難シミュレーションでは、多くのパラメータを入力した上で、膨大な量のシナリオについて計算することになります。例えば津波の場合、地震の発生源や津波が発生する場所、速度、高さ、到達時間といった津波についての情報があります。群衆の動きは、エリアや環境によって変わります。東京23区内と湘南とでは、人口も街の構造も標高も違いますから、まずはその街とそこに暮らしている人の特徴を把握するのです。

そこまでがわかった上で初めて、避難所、道幅、子どもや高齢者などの数を考慮したシミュレーションへと進みます。津波が来たからといってみんなが一斉に避難するわけではないので、さらにいろいろなシナリオを想定。災害発生から何分後に避難指示を出して、その避難指示に対して何%の人が避難活動を開始するかなど、各方面からパラメータを入れていき、多種多様なシナリオに対してシミュレーションしていくのです。

スーパーコンピュータを使って数万のシナリオを計算

群衆行動のシミュレーションに必要なパラメータはあまりにも多く、コンピュータで計算する量が膨大であるため、普通のコンピュータでは、1つのシナリオを計算するだけでも何日もかかってしまいます。実際にはシナリオが何千から何万も考えられ、それをすべて処理するのには一生あっても足りませんが、それを可能にするのがスーパーコンピュータです。

私は前職の海洋研究開発機構(JAMSTEC)においてJAMSTECが所有する「地球シミュレータ」」というスーパーコンピュータに関する技術支援、および「地球シミュレータ」を用いた研究に従事していたという経緯があり、JAMSTEC時代から群衆行動シミュレーションを研究してきました。

「地球シミュレータ」は海洋を中心とした地球科学分野の研究に利用されており、現在は3世代目が稼働中ですが、初代機は2002年から2004年まで演算速度世界一(TOP500)であった世界トップクラスのスーパーコンピュータです。2000年から2100年までの100年間分の地球温暖化シミュレーションのほか、東南海トラフ地震による津波、東北地方太平洋沖地震のシミュレーションをしたコンピュータとして知られています。

これまで、「地球シミュレータ」を使って台風や地震の発生などを予測してきましたが、発生した台風や地震と人の動きを関連付けることはしていませんでした。しかし、安全安心という観点ではその後の人の動きこそ重要だと考え、現在につながるマルチエージェントシミュレーションを研究テーマとするようになったのです。

歩行者行動モデルを用いて実際の人と同じ動きを検証

JAXAのプロジェクトの中には、月面探査に関わるものもあります。月の調査のためにJAXAが打ち上げた「かぐや」という月周回衛星を使って、月の土中をリモートセンシングしたところ、月に溶岩ドームのようなトンネルがある可能性が出てきました。もし月に大きな空洞があれば、人間にとって有害な宇宙放射線を遮ることが可能になり、人が暮らす月面基地にできるのではないかというユニークな研究です。

このプロジェクトにおいて、空洞を調べる探査機にエネルギーを送る無線通信技術の部分を検討しています。トンネル内は真っ暗ですから、太陽電池パネルは使えません。そこで、太陽光が当たるところで太陽電池パネルから中継して、無線で動く探査機にエネルギーを送るというプランです。

できるだけ長時間の観測を実現するために、以前からJAXAの研究者と一緒に研究していた整流回路(交流を直流に変換する回路)を活用し、データ通信を行いながらエネルギーも送ることを考えています。

災害時だけでなく平常時の人の動きもシミュレーション

これまでは主に災害時を想定したシミュレーションを行ってきましたが、現在は災害のない平常時の人の動きに着目しています。平常時の街の人々はそれぞれ別の目的に向かって移動しているので、群衆として捉えるのは難しいとされてきましたが、あえてそこにチャレンジしています。

まずは大型商業施設やイベント開催時の人の流れの予測に役立てようと、横浜市と一緒にコンサートホールでの人の動きのシミュレーションをしています。このケースでは、1万人規模のコンサートホールで6000人が退場する場合を想定。このホールには1階と2階それぞれに出口があり、そこから出た人たちが3方向にある駅に向かって歩き出しますが、群衆が交わる場所は対向流が起こり、群衆雪崩による大事故の危険性があります。

そこで、実際にシミュレーションをしてみると、全員を同じタイミングで退場させると危険であることがわかりました。また、駅に向かう道の混乱もわかりますが、一つの駅まで続くデッキが新設された場合をシミュレーションしたところ、デッキができることで人の流れがきれいに分散され、危険度が下がることが明らかになりました。シミュレーションの結果により危険を見越した対応を検討したり、デッキを設置することのメリットを可視化することにもなるのです。

人の動きを誘導して、街を活性化させるプロジェクトも始動

次のステップでは、単に人の動きをシミュレーションするだけでなく、人の動きを変えるような関わりを検討しています。人間の心理として、来た道と同じルートで帰ろうとしますが、それではもったいないので、そこにいる人たちの属性から行動を予測し、デジタルサイネージやスマホなどを活用して人を誘導。賑わいを分散するモデルです。

子ども向けのイベントに行った親子なら、イベントが終わったタイミングで告知を行い、その周辺で行われている子ども向けの施設や飲食店に誘導する。そのようにして対象に合わせた情報を出すことで、そのエリアの滞在時間が増え、経済効果を高めることが狙いです。この研究については、センシング技術を得意とする企業、人の動きから行動を認識するAIグループ、都市環境・都市開発の専門家による大規模プロジェクトとして、スタートする予定です。

スーパーコンピュータを使うような大規模シミュレーションができることは、この研究室一番の特徴です。実際の街や商業施設を想定したプロジェクトも多く、学生たちにもプロジェクトに関わってもらい、コンピュータシミュレーションを通して、人や社会の役に立つ技術者を目指してほしいと思っています。

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